掲載日:2013-12-05
平成24年9月9日、三田の東京都障害者福祉会館において、藤岡毅弁護士による上記標題の講演があった(障都連主催)。藤岡氏は、東京弁護士会 高齢者・障害者の権利に関する特別委員会福祉制度部会会長、内閣府 障がい者制度改革推進会議総合福祉部会、日弁連人権擁護委員会障がいのある人に対する差別を禁止する法律に関する特別部会等を歴任した、いわば障害分野のエキスパートであり、本制度改革におけるキーマンの一人だ。特に、今は、障害者差別禁止法の成立に向けて精力的に活動されており、それが本講演の主要なテーマでもあった。
まず、開口一番、日本における障害者制度改革が遅々として進まない最大の原因として、広報戦略の不足を挙げた。すなわち、一般国民に知られていない、また、知らせるための十分な努力がなされていない、ということだ。その結果、今までの成果は、せいぜい改善か微修正と言ったレベルにとどまり、到底海外アピールできるだけの内容ではない、と嘆いていた。障害福祉予算は約1兆円もあるのだから、そのほんの一部でも、テレビでのキャンペーンに使っていれば、状況はもっと変わったものになっていたであろう、と言う。
次に、障害者制度改革の法的構成について言及した。制度改革を担う具体的な個別法として、福祉法、虐待防止法、雇用法、差別禁止法があるが、それらの根源に最高法規としての憲法があり、さらに、国連の障害者権利条約があると指摘する。日本は、2007年にこの条約に署名したが、いまだ批准していない。障害者権利条約は、すでに117カ国、国連加盟国の77パーセントが批准しているにもかかわらず、いまだ批准してない約2割の国々の中に取り残されている。通常署名してから5年以内に批准するというのが暗黙のルールだから、そろそろ決断に迫られているということになる。また、憲法や条約と、個々の実定法をつなぐものとして、昨年改正された障害者基本法(制定は、1970年)がある。
さらに、藤岡氏自身が関わった障がい制度改革推進会議の経緯について述べたが、これについては紙面の関係上割愛し、差別禁止法について触れたい。まず、差別を禁止するための意識の改革として、ただ抽象的に「差別はダメですよ」と言っても、多くの人々は身近に障害者の友人などはいないので、もっと具体的な形でアピールする必要がある。その意味で、Eテレの「バリバラ」(バリアフリーバラエティ)は面白い。ちなみに、筆者も「バリバラ」の大ファンで、先日のSHOW-1(障害者のお笑いグランプリ)で優勝した、精神障害者漫才は最高に面白かった。
障害者差別禁止法における「差別」とは、「障害を理由とするあらゆる区別、排除、制限」であり、この中には、「合理的配慮の否定」も含まれる。また差別には、「直接的差別」だけでなく「間接的差別」も含まれる。これはかなりラディカルな定義であり、例えば、次のようなことをさす。雇用における採用条件としての「自力通勤」は間接的差別に該当し、この場合は、ヘルパーによる送迎(すなわち、合理的配慮)も認められなければならない。
しかし、このような差別概念は、弁護士の間でもほとんど知られていない。また、藤岡氏自身が関わった障害者グループホーム建設への住民の反対運動では、「地価が下がる」「財産権の侵害だ」などと、信じられないような反対理由が住民側から平然と述べられた。意識の壁はいまだに大きく立ちはだかっているようだ。道遠きことを改めて感じながらも、元気の出る講演であった。
(文責:小林英樹)